君をひたすら傷つけて
 少しだけリビングを回った後にやっと下ろされたかと思うと、またギュッと抱き寄せられ、私の唇はアルベールの唇に塞がれたのだった。痺れるような感覚が体中を駆け巡りドキドキも加速する。顔も身体が熱くなってくる。


「ヤバい。可愛すぎて雅を離せない」

「離してくれないと料理できない」

「それって究極の選択。雅を離したくないし、雅の作ってくれた料理も食べたい」

 究極の選択も何もないと思うけど、こんな風に真摯に思ってくれる気持ちは嬉しいとも思う。愛されているという実感は恋愛経験の浅い私でも感じるくらい。

「俺にいい考えがある」

「なに?」

「俺も一緒に作る」

 あの冷蔵庫の様子からみて、アルベールは料理をすることは出来ないだろう。それでも一緒に居たいと思ってくれる気持ちが嬉しかった。

「そうね。アルベールも手伝って」

 アルベールの住むアパルトマンのキッチンは二人で並んでも大丈夫なくらいに広い。アルベールはキッチンに入るとまずは綺麗に手を洗うことから始めた。流れる水の中で綺麗に洗われていく手を見ていると頭の上からクスクスと笑う声がする。

「どうせ見るなら、俺の顔を見てよ」

「綺麗な手だと思って」

「顔は雅の好みじゃない?」

「そんなことないわ。とっても好きよ。」

 その声の方に顔を向けると、また唇に温かいものが触れた。両手はまだ濡れているのに器用に私の唇に自分の唇を重ねてくる。目を見開いてしまった私に少しだけ唇を離したアルベールが囁く。

「雅。好きだよ」

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