君をひたすら傷つけて
 私の決めて来たメニューはそんなに時間の掛かるものではなかった。でも、アルベールと一緒に作るということは思ったよりも時間が掛かることが分かった。少し何をするごとに、アルベールは私を抱き寄せるし、気を緩めると、すかさずキスの雨が降り注ぐ。そんな中どうにか出来たのはそれこそ奇跡という言葉がよく似合う。

 テーブルに料理を並べていると、アルベールは冷蔵庫で冷やしていたシャンパンを一本持ってくると、ニッコリと笑った。後はシャンパンを注ぎ、食事をするだけ。でも、アルコールを飲むとアルベールは運転出来なくなる。

 後戻りは出来ない。

 キュッと自分のワンピースの裾を握ると、その手に気付いたのかアルベールはクスクス笑った。

「そんなに真剣に見なくても大丈夫。俺が飲んでもきちんとタクシーで送るから。帰ることは心配しないでいいよ。今日いきなり雅をどうこうしようというのはないしね。ただ一緒にお祝いして欲しいだけなんだ」

 私がそっと頷くとアルベールはゆっくりと笑みを零す。テーブルに並んで座るとアルベールはシャンパンの封を切り、コルクが飛ばないように止められている針金をゆっくりと解くと、私の方を見つめ微笑んだ。

「開けるよ」

「うん」

 私がそういうと同時にポンという勢いのいい音がしたかと思うと瓶の口のところに炭酸が弾けたような飛沫が少しだけ舞う。飛んで行ったコルクの軌跡を見てからアルベールは私のグラスと自分のグラスに弾けるシャンパンを注ぐ。

 グラスからそっと立ち上る細かな泡はグラスの中、揺らめきながら昇って行く。

「アルベール。誕生日おめでとう」

 私がそういうとアルベールは少し照れたような微笑みを浮かべている。テーブルの上には私の買ってきたケーキもあり、私が料理したというだけでなく誕生日のパーティの様相も呈していた。

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