君をひたすら傷つけて
リズはいつものように微笑むと何も言えず、玄関先に立ったままの私の腕を取るとキュッと部屋の中に引きいれた。

「ちょうどよかった。今から朝ご飯よ。スクランブルエッグを作るのを手伝って欲しいわ。着替えをしてからでいいから」
「うん。あの、リズ」
「ん？」
「スクランブルエッグよりは目玉焼きがいい」
「好きにしていいわ。でも、とにかく早くして」

　私はリズの言葉に急かされるように自分の部屋に入ると普段着に着替えた。そして、目をギュッと瞑って、頬を二回両手で軽く叩いた。

「スープはあるから後はスクランブルエッグね」
「目玉焼きでいいでしょ」
「そうだったわね。好きにしていいわ」

　テーブルの上に並べられたのはパンとスープ、目玉焼きにサラダだった。そして、リズはブラックコーヒーで私はカフェオレ。いつもの朝食の風景だった。マグカップに入れられたカフェオレはいつもより少し甘めだった。

「さ、食べましょ。今日も大事な仕事があるの。雅も手伝って貰っていい？」
「勿論よ」
「イタリアのコレクションで使うものを探しに行こうと思っているの。いっぱい買うと思うから荷物持ちね」

　私の顔を見れば何が起きたかは分かるはずなのに、リズは何も聞かずに、ただ、いつもと同じ朝を一緒に過ごす。話す内容は仕事のことが主で、たまに雑談。そんな話をしながら、私は少しずつ笑うことが出来るようになっていた。
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