君をひたすら傷つけて

翻弄されて

私の仕事は順調だった。学校もそれなりの成績で卒業し、私は正式にリズのアシスタントとなり、リズが居ない場所で自分だけで仕事をすることもあった。それは緊張もあり、そして、自分が成長したいと思い、貪欲に仕事をした。

「卒業おめでとう。これからは一緒に頑張りましょ」
「こちらこそ、今までありがとう。学費も日本の親に頼らずに卒業出来たのはリズのお蔭よ。本当に感謝している」
「そうね。感謝して貰うわ。今週末のパリ郊外の居城を使ってのコレクションのスタッフとして入って貰う。いくつかの担当をして貰うから」

「卒業したばかりには難しいわ」
「そんなことないわ。さっきの言葉忘れないで。私に感謝しているんでしょ」
「でも」
「でもじゃない。とりあえず働いて貰う」

 リズはイタリアで事務所を開き、本格的にイタリアとフランスを行き来する生活を送っている。そんな中、私が卒業したことにより手伝えることも増えて良かったと思う。でも、ハードルは高すぎる。

「今回のコレクションはアルベールがラストよ」

 アルベールと私の付き合いはあの夜から変わるかも知れないと思ったけど、それはなかった。仕事でも会うことが多かったし、食事にもバーで一緒に飲むこともある。私が素直にアルベールの横に座っていられるのは優しさに他ならない。二人で楽しい時間を過ごして、そして、帰り際にキスして、きゅっと身体を抱き寄せて貰う。

 最初はくすぐったい様な恥ずかしい気持ちになったけど、アルベールに言わせると『フランス流にも合わせるように』とのこと。キスをすることも抱きしめられることもあるのに…。
 
 それ以上の進展はなかった。
< 455 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop