君をひたすら傷つけて
「久しぶりだね」

 書類のチェックをしていると、目の前にコーヒーの入ったカップを持ったアルベールが立っていた。私が最終の打ち合わせが終わった直後で、それを見計らったかのようだった。リズのアシスタントをしていた時の方がアルベールに会うことは多かった。

 でも、独り立ちした今となってはアルベールは私からは遠い位置にいるモデルだった。今回も担当はリズがしている。

「本当に。アルベールは休憩?」
「どうだろ。リズが考えたいことがあるから急に休憩になった。雅が休憩しているのが見えたから、俺の集中が削がれるくらいなら休憩の方がいいと思ったのかもしれない」
「そんなことないでしょ。アルベールは仕事の時は真剣だもの」
「真剣だけど、雅の姿を探してもいる。好きな女の子に視線が行くのは仕方ないよ」

 アルベールは顔が真っ赤になりそうなことをサラッと言う。自覚がないのか、コーヒーを飲みながら私の横で寛いでいる。カップから白い湯気がコレクションが行われる大広間に上っていく。古い居城は昔、ここで舞踏会が行われたのだろうと思われる豪華さだった。革命が終わった後、大戦もあったにも関わらず当時の姿を残しているのは奇跡といっていい。

 その大広間にランウェイを作り、テーブルでワインを飲みながらコレクションを楽しむのはディーの趣向だった。

「雅。知ってる?このコレクションは前評判がいいから、これをパリやイタリアでもしようという声が上がっている。チケットを欲しがる関係者が多かったようだよ。そうなるとまた一緒に仕事が出来るね」
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