君をひたすら傷つけて
「ここにいたの?」

 そこに居たのはさっきのスーツではなく、少しだけフォーマルなブラックスーツを着たアルベールの姿があった。月の光はアルベールの輪郭を浮かび上がらせていた。髪が風で揺らめくのを私は魂が抜かれたかのように見つめていた。そのくらい美しかった。

「アルベール。主役がこんなところにいたら駄目よ」
「それは雅も一緒。ディーが探してた」
「さっきまでの興奮で指が震えているの。だから、少し落ち着こうと思って」
「わからないでもない。俺もだから。コレクションが終わると身体の奥が熱を持つ気がする」
 
 そう言うとアルベールはふわっと私の身体を抱き寄せた。

「こんなところで駄目」
「分かっているけど、雅が月の光で眩くて消えてしまいそうで怖かった」
「ここにいるから」
「そうだね。そうなんだけど、あんまりにも雅が綺麗で」

 そう言って私はアルベールの背中に手を回すと広く大きな背中を抱き寄せた。

「ここにいるから。それに私はアルベールほど綺麗じゃないわ」
「そんなことない。俺にとっては一番綺麗で可愛い女の子だよ」

 そして、少しの時間を二人で過ごし、コレクションの打ち上げの輪に戻った。戻って来た私を待っていたのか、ディーは私の手を掴むと、ニッコリと笑った。

「雅。これからも一緒に仕事をしたい。フランスとイタリアのコレクションも手伝って欲しい」

 それは私にとって最大の賛辞だった。
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