君をひたすら傷つけて
リズの言葉を聞きながら、自分がいかないといけない理由もなんとなくわかった気がする。
リズの話を聞きながら断れないと思いながらアルベールのことを考えてしまった。日本に行くことをアルベールはどう思うだろう。

「どのくらいの期間になる?」

 日本の拠点が落ち着くまでの期間はどのくらいになるのか分からない。足りない日は一日でも、そう簡単には終わらない気がする。リズがイタリアでの事務所を立ち上げた時には一か月以上もフランスとイタリアを行き来していた。でも、今回は日本。そう簡単に行き来出来る距離ではない。

 時間もお金も掛かりすぎる。

「最低でも一度向こうに行ったら半月は掛かると思う。事務所を作るのもだし、登記もしないといけないの。登記が出来てから取引先の挨拶もしないといけないの。登記は専門の人に頼む予定だけど、取引先の挨拶にはまりえでは無理でしょ。でも、雅は私が行くまでの繋ぎでいいから。一週間くらいで帰って来れると思うけど、これも定かではないの」

 まりえは無理というか…。手伝ってもらうにしても社員としてではないから、取引先の挨拶までは出来ない。その点私はここではリズの会社で働くスタイリストとなっている。リズの友達がどのような人なのか分からないし彼女が日本語が堪能かどうかもわからない。そうなると私が行くしかないのだと分かった。

 リズの表情は深刻で眉間には深い皺を刻んでいる。そのくらいに切羽詰ったじょうたいなのだろう。今回の仕事の意図をきちんと説明したら、アルベールはきっと私のことをわかってくれるだろうと思った。彼もこの業界にいる。リズの立場も既に動き出している日本の拠点のことも説明すればわかるはず。
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