君をひたすら傷つけて

運命

 高取くんを学校案内してから一週間が過ぎていた。高取くんは博識なだけでなく温和な性格の持ち主でクラスにも打ち解けるのは早かった。女の子に囲まれるのは毎日のことだけど、徐々に男の子たちとも楽しそうにしている時間が増えている。私の隣席は受験期でささくれ立った心を癒すかのように優しく思いやりのある笑顔に包まれていた。


 内容はテレビの話だったり、スポーツの話だったりとその時のこと。そんな姿を見ながら短い期間だし、時期も時期だし慣れるかと心配したのは杞憂だった。移動教室の時も本人が言っていた『迷子」になることもない。

 
「ねえ、高取くん。今日の放課後に遊びに行かない?受験前に息抜きにみんなで遊ぼうってことになったの」


 高取くんに話し掛けたのはクラスでも一番可愛い女の子だった。私は英語の単語帳を見ながらどんな答えをするのだろうと思っていた。高取くんはニッコリと笑ってサラリと躱した。


「誘ってくれてありがとう。でも、今日は用事があるんだ」

「そっか。用事があるなら仕方ないよね」

「本当にありがとう」


「ううん。また、誘うね」


 女の子は残念そうな顔をするけど、それ以上は高取くんには言えなかったみたいで自分の席に戻っていく。そして、チャイムが鳴って先生が教室に入ってきた。

< 47 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop