君をひたすら傷つけて
私はリズの代わりに日本に行くのは出張に行くのと同じ感覚だったけど、アルベールには違ったようだった。

「リズの代わりにしばらくの間は日本に行くことになるけど私が働いているのはここですもの。ここしか仕事ないし」
「心配しすぎだな。さ、それを飲んだら出掛けようか。久しぶりに雅とゆっくりしたい」
「うん。私も」

　私の今の生活の拠点はここにある。今更、日本の会社で就職するつもりもない。それなのに心配をするというのは私が日本人だからなのかもしれない。

　街を歩いて、一緒に入ったビストロで二人でワインを空けて料理と一緒に楽しんでいた。すると、アルベールはニッコリと笑った。

「もう一本ワインを飲みたいけどいいかな」
「いいけど、コレクションのために身体を絞ったのに大丈夫？」
「今日は特別。また明日からストイックな生活が始まるから、今日ぐらい楽しみたい」

　アルベールの言葉にそっと頷くと、アルベールはワインリストから芳醇な香りで有名なワインを選ぶ。口当たりは軽く度数も低め。アルベールがいつも好むものというよりは飲みやすいものだった。

「雅ともう少し一緒に居たいんだ」
「いいけど、大丈夫？明日は仕事でしょ」
「明日は昼からの打ち合わせだから大丈夫」

「それなら炭酸入りの水にしたら？」
「本当に雅は仕事に対して真面目だよな」
「仕事だもの。当たり前」
「そこが雅のいいところだよ。尊敬する」

「酔っているの？」
「いや。俺の本音。愛している女を尊敬できるって幸運だよな。雅のいう通りにする。ワインは止めておくよ」

　店を出たのはグラスの炭酸水を飲みきってからだった。
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