君をひたすら傷つけて
「日本のお土産はリクエストしてもいい?美味しい日本酒を買ってきて欲しい。帰ってきたら、一緒に日本酒で乾杯しよう」

 日本酒は飲んだことない。大学二年の時に渡仏して一度も日本に帰ってないから日本酒を飲む前にワインの味を覚えた。一度帰ろうとか思ったこともあるけど東京には帰る場所がない。お父さんの転勤で東京のマンションは他の人に貸していて、両親は今、名古屋にいる。弟のマンションに泊まってまで日本に帰りたいと思わなかった。

 帰ったら義哉のことを思い出す。アルベールと付き合いだしたことを怒ることは無いと思うけど、なんとなく心が重い。

「分かった。楽しみにしてて。でも、私も日本酒って飲んだことないから、日本の人に聞いてから買ってくる」
「楽しみだな。日本に行く前に会いたいけど、雅は忙しいの?俺もコレクションがあるから、時間がそんなにない。でも、絶対に少しの時間でもいいから会いたい」

「私も会いたい。飛行機や向こうでのスケジュールが決まったら連絡する。今はリズの代わりに行くことだけが決まっていて、リズが日本に来るのと同時に帰国出来ると思う」
「雅。もしも、雅が良かったらだけど、一緒に住まないか?」

「それって?」
「うん。お互いに忙しいだろ。だから、少しでも一緒に時間を過ごしたい。返事は日本から帰ってからでいいから」
「うん」

 今日も部屋に帰ってもリズは居ない。仕事が忙しくなってきてヨーロッパ中を駆け巡っている。一人で過ごす部屋は寂しいけど、それでも今はまだあの部屋が私の帰っていく場所だった。
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