君をひたすら傷つけて
仕事をして、アパルトマンに着いたのは夕方になっていた。

　明日の早朝の飛行機で私は日本に行く。日本までの長いフライト時間をを考えると今日は仕事ではなく、自分の部屋でゆっくりしたかった。でも、現実はそういかなかった。フランスでの雑誌の撮影のスタイリストが急に病気になり、その依頼がリズに来たけど、リズはイタリアに居たので、急遽私が代役として雑誌の撮影の手伝いをすることになった。

『ディー』のコレクションの準備は綿密な計画の元に行われ、一分の隙も許されない。そんな緊張の中でリズはその重大な責任を負っていた。

　フランスに帰国した時に『ディー』のコレクションに私もアシスタントとしてでもいいので、携わりたいと思う。

　リズから着信が入ったのは私がアパルトマンの部屋に入ってすぐのこと。仕事が忙しいのに、少しの時間を見つけてくれてリズが連絡をしてくれたのだった。

『ごめん。前日も一人にして。それに雑誌の撮影ありがとう。上手く行ったとカメラマンから連絡が来たわ』

　リズのどんなに仕事に打ち込んでいるのかを知っていたら、前日に一人だなんてどうでもいいことだった。自分も殆ど寝てないだろうに、私のことを思ってくれる気持ちが嬉しい。

『リズも仕事頑張って。私も日本で頑張ってくる』
『雅なら大丈夫。エマは凄くエネルギッシュな人だから、雅もいい刺激を貰って帰ってきてくれるのを楽しみにしている。日本に行ったら、まりえによろしく』
『うん。じゃあ、行ってきます』
『気を付けてね』

　電話を切るとすぐにまた違う名前が携帯の画面に浮かぶ。

　アルベールからだった。

　アルベールはコレクションのリハーサルが何度も行われていて、その調整に忙しそうだった。
< 475 / 1,105 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop