君をひたすら傷つけて
「凄く美味しそう」

「雅が作ってくれたののほうが美味しいと思うけど。さ、食べようか」

 アルベールは白いお皿に綺麗にパスタとサラダを取り分けてくれ、グラスにはワインを注いでくれた。

「チーズはどうする?ハムも美味しいよ」

「白の次は赤にする?赤なら、ハムよりも肉でも焼くかな」

「こんなに時間に肉を食べたら太る」

「赤身の肉は太らないから大丈夫。ほら、このチーズは美味しいよ」

 アルベールはチーズをフォークで差すとそのまま私の口に運んでくる。躊躇する私にニッコリと笑いながら、口を空けるように指先を動かす。口の中に広がるのは濃厚なクリームのようだけど、後味はチーズだった。

「美味しい。これ」

「だろ」

 アルベールは自然体だった。愛されているとは思うけど、深く私を求めているようには見えなくて、私を甘やかせたいという感じだった。お兄ちゃんに甘えることはあっても、こんな風ではなかった。

 これが恋人の距離。恥かしいけどそれが心地いい。

 手を伸ばすと届く距離。そこにアルベールがいる。

 二人で軽めの食事をしながら、ワインを傾け、そして、チーズを口に運ぶ。そして、仕事のことを中心に話は弾んでいく。そして、夜も次第に更けていく。

「そろそろ。雅はシャワーを浴びておいで。シャワーを浴びて少し寝たら日本との時差が楽になる」
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