君をひたすら傷つけて
 私がアルベールと一緒に飲むときはどんなに遅くても日付が変わることはない。でも、今日は日付が変わって時間も過ぎている。明日から暫く会えないというのからかもしれないけど、アルベールの雰囲気を見ていると普段通りだったから時差のことを考えているとは思いもしなかった。

 フランスと日本の時差を考えると、少しでも遅く寝た方がきっと楽。日本に帰った時にすぐに動くことが出来るだろう。

「時差を気にしていたの?」

「少しはそれもあったけど、俺が雅と一緒に居たいと思ったからかな。でも、そろそろ寝ないと仕事もあるし」

「明日の仕事は?」

「仕事は夕方。だから、雅を空港まで送れるし、ギリギリまで一緒に居れる」

「ありがとう。アルベール」

「お礼を言われることはないよ。俺が一緒に居たいだけだし。でも、俺は自分勝手だから、雅が寝坊したらそのまま寝せておく」

「それは困る。どうしても日本に行かないといけないんだもの」

「それは残念。テーブルは俺が片付けておくから先にシャワーを浴びておいで。それとも俺と一緒がいいならご希望に応えるけど」

 冗談で言っているのは分かるのに顔が真っ赤になるのが自分でも分かる。こういう時にどういう反応をしたらいいのかわからない。

「そんな顔すると襲うよ」

「……。」

「ほら、襲われたくなかったら早く入っておいで」

 アルベールはクスクス笑いながら、ワイングラスに残ったワインをそっと飲み干したのだった。その姿は写真に残しておきたいと思うほど洗練された動きで私は見とれてしまう。

「ん?どうした?」

「綺麗だなって」

「残り物のワインを飲む姿が?」

「うん」

 その少し酔ったアルベールの甘い微笑みに身体がスッと誘われるように近づくと…。私はアルベールの肩に手を添えると自分から唇を重ねた。
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