君をひたすら傷つけて
部屋で届いていた荷物の整理は時間が掛からなかった。一か月の生活のために私がフランスから送ったのは必要最低限のもので数少ない服をクローゼットに掛けるくらい。バッグも靴も最小限しか持ってきてない。

 生活必需品は食器は何もなくて、安いものを買うつもりだった。でも、リズとまりえとのお揃いのマグカップだけは大事に持って来た。

 日本に帰国して二日目の夜。コーヒーを飲みながらフッと溜め息を零す。流れるテレビの映像も目には映っているけど、全く頭には入ってこない。目の前のテーブルに置いてあるマグカップにはコーヒーは既に冷めていた。

 私は明日会うエマのことを考えていた。私が持っているエマの情報は少なくて、リズのアメリカの時の友達ということと。日本で事務所を開こうとするくらいだからやり手でビジネスの才能に恵まれているということは分かる。

 私が明日からする仕事はエマの手助けをしながら会社設立に尽力すること。そして、リズが日本に来るまでスムーズに仕事が出来るようにとその下準備をすること。リズのアシスタントをしていたとはいえ、今回は会社設立という重大な仕事の一環を担うのは気が重かった。

 エマはどんな人なのだろう。リズの友達だから、きっと個性的だろうな。

 そんなことを考えているとテーブルの上に置いていた携帯電話が震えた。この携帯電話をメールを送って来れるのはお兄ちゃんだけで、私はそっと携帯を手に取ると、スルリと指を画面を撫でた

『今、仕事が終わった。雅が出て来れるなら一緒に食事でも行かないか?』
『いいの?』
『ああ。三十分くらいでマンションの前に迎えに行く。着いたら連絡するから降りておいで』
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