君をひたすら傷つけて
綺麗な微笑みを浮かべて私を見つめるその人はお兄ちゃんが担当している俳優の篠崎海だった。名前は聞いたことがあったし、インターネットで彼の写真を見たこともある。でも、実物はどんなにいい写真からも感じられない圧倒的なオーラに包まれている。

　大学生の時にモデルを始めて、その後、俳優に転向して数々のドラマや映画に出演していて、お兄ちゃんの事務所で今、一番旬な俳優だった。

　アルベールも綺麗だと思った。でも、この篠崎海の綺麗さも甲乙つけがたい存在。自分の恵まれた容姿を何とも思ってないのか、彼の醸し出す雰囲気に驕りはなかった。フランスで色々なモデルや俳優に会ったことがある。そんな私でも視線を囚われるほどの綺麗さなのに、ある種独特の驕りのなさに驚いた。


　この人がお兄ちゃんが大事に思っている俳優。服を綺麗に着こなしそうな均整の取れた体躯もしている。背筋の伸びた彼はかなり背も高いので恵まれていると言える。現役のモデルでもここまでの存在は珍しいくらいだった。

　今は俳優かもしれないけど、モデルの時も輝いていたのは想像出来る。逃げたくなるような綺麗さなのに彼の浮かべる屈託のない微笑みが私の肩からスッと力を抜かせた。俳優としてのオーラはあるのに穏やかさは魅力的だった。

「仕事が終わって帰るための迎えの車が渋滞に巻き込まれたんで、高取に送って貰うように頼みました。用事がデートとは思わなかったのでお邪魔してしまいました」

「いえ。あのデートとかではないですから」

　お兄ちゃんと一緒に食事に行くのをデートというのは申し訳ない。お兄ちゃんにも大事な人はいるだろうし私は彼女ではなく妹のようなもの。お兄ちゃんの傍にいる人だからこそ、きちんと誤解は解いておかないといけないと思った。
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