君をひたすら傷つけて
会社を立ち上げるということの大変さは分からない。でも、リズがイタリアに出店する時は何日も帰ってくることが出来なかった。今回は移動距離はないけど日本に支店を作るということは大変なことだと思う。設立の登記とかは専門の人にして貰うことになっているけど、その内容を確認して、エマに説明していくのが今回の仕事になる。

 エマさんはどんな人なのだろう。リズの友達だから仕事が出来るというのはなんとなく想像することが出来る。彼女はネイティブな英語を話すだろうし、その発音を私は聞き取ることが出来るだろうか?というのも不安になってしまう。今では英語よりもフランス語の方が楽に話せるようになっている。

「私の仕事はあくまでもエマさんがスムーズに設立登記が出来るように手伝うこと。でも、登記するスタッフとエマさんとの通訳をしないといけないと思う」

「前に貰ったメールにはリズさんの友達の会社設立のために帰国とあったけど、雅は通訳としてこっちに来ているんだね」
「うん」

「何か困ったことがあったら相談しろ。これでもファッション業界ともパイプはある。うちの事務所はモデルもいる」

 お兄ちゃんの会社は日本で一番大きな芸能プロダクションで抱えている俳優やモデルも多い。でも、仕事の面でお兄ちゃんを頼りたくないと思っている。

「その時はよろしくお願いします」

 そう言いながらも絶対にお兄ちゃんには頼らないと思った。

 食事が終わったのは一時間半くらいしてからだった。私は最後のお茶まで飲むと、お腹がいっぱいになってしまった。その間にお兄ちゃんから仕事の話を聞いた。それは私の知らないお兄ちゃんの姿だった。
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