君をひたすら傷つけて
ふと見上げた視線の先にあるお兄ちゃんの横顔が義哉の顔に重なる。兄弟なだけあって、義哉があのまま成長したら、こんな風になるのかもしれないと勝手にお兄ちゃんに私は義哉を重ねる。

「どうかした?」
「ううん。何もない。美味しかったなって」
「また行こう」

 義哉のことを思うと胸の奥がキュッとなるけど、それでも私は今、笑っている。時間が過ぎるということはこんなことなのかもしれない。

 胸を掻き毟るような苦しさも今は少し緩み、綺麗な思い出となって私の中に残っている。そして、私は義哉に出会えて恋を出来たことがよかったと思っている。

 車の中でもずっとお兄ちゃんと私は話し続け、あっと言う間にマンションの前に着いてしまった。楽しい時間は終わりかと思うと少しだけ時間が長くなればいいと思うけど、そんな我が儘を言うわけにもいかなかった。

 明日は私もお兄ちゃんも仕事だし、私は明日エマさんに会わないといけない。そんなことは私が一番分かっていた。

「送ってくれてありがとう」
「ああ。楽しかったよ。また行こうな」
「また誘ってね」

「ああ。雅も仕事が落ち着いたら連絡してくれ。俺も海のドラマが入っているので時間が不規則になっているけど、雅がフランスに帰るまでは出来るだけ一緒に出掛け体と思ってる」

「うん。分かった。連絡するね。じゃ、今日はありがとう。ご馳走様でした」
「ゆっくり寝ろよ」

 お兄ちゃんの車は私がマンションのエントランスを抜けてから動きだした。

「明日は頑張らないといけない」

 そう思いながら自分の部屋に戻ったのだった。
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