君をひたすら傷つけて
会社設立のスタッフに軽く見られるわけにはいかなかった。言葉が分からないからと侮られるわけにもいかないし、クライアントとしては後手に回るわけにはいかない。エマさんの年齢は分からないけど、リズもエマさんも日本でのビジネス、それも会社設立登記などを行う会社の人員からするといい様に扱われやすいだろう。

 英語やフランス語とは違って、日本語はニュアンスや語尾に寄って意味が変わって来る場合がある。契約書の隅々まで読んで理解してからでないと契約は出来ない。

 会社設立は勿論経験ないし、エマさんとも上手く行くか分からない。軽く化粧をして髪を纏めると私は自分が緊張しているのに気付いた。

 時間は九時を過ぎたくらいだったが、マンションに一人でいても緊張してしまうばかりなので、私はかなり約束の時間には早いけど出掛けることにした。部屋を出てマンションのエントランスを歩いているとパンプスの踵の音が妙に響いていて、その音にも緊張し始めていた。
 
 今回用意されたマンションと新しいオフィスは電車で駅を一つ離したところで通勤するには便利のいい場所だった。リズの仕事が深夜を回ることが多いから、これから先のことを考えるといいと思う。

 駅に行く道の途中にあるカフェのガラスに映った自分の姿を見て笑ってしまった。眉間の皺と不安げな表情が浮かんでいる。これだったら上手くいくものも上手くいくはずがない。私は迷うことなくその店に入るとカウンターに向かった。

「カプチーノをお願いします」
「畏まりました」




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