君をひたすら傷つけて

リズの代わりに

エマの事務所で働き出してから一週間が過ぎていた。シャンパンでグラスを傾けた日から数日後に無事に登記が終わり本格的に仕事を始めていた。最初はどのくらいの仕事量があるかと悠長に考えていたけど、エマの名前は日本でも既に有名になっているみたいで、毎日のように仕事が舞い込んでくる。

 エマのパソコンから出てくる依頼書を見ながら準備をメーカーなどに連絡を取って、衣装を借り受けたりしながらコーディネートしていく。フランスではどちらかというとコレクションが主な仕事だったけど日本では雑誌の撮影やテレビに出る人の衣装も準備する。細かな心配りが必要だった。

 ベッドにも入れずにソファに横になって朝の光によって起きるということもよくあり、仕事一色の時間を過ごしていた。充実している毎日でリズが来るまでの繋ぎを頑張ることしか頭になかった。

 日本に来てからアルベールとは何度か電話をしたけど時差の壁とアルベールの仕事の忙しさが邪魔をしていて思った通りに連絡を取ることが出来なくなっていた。

 電話越しのアルベールの声は遠く感じてしまう。フランスでは二人で時間を見つけては一緒にいたからかもしれないけど寂しくて仕方なかった。

『雅が頑張っているのを応援している』

『でも、雅の顔を見ないと寂しいよ』

『雅が帰ってくるのを待っているよ』

 そんな優しい言葉に甘えながら、優しい言葉に励まされながら時間を過ごしていく私がいた。自分で選んで日本に来たのに、私が寂しいとは言えなかった。頑張るとしか言えなかった。
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