君をひたすら傷つけて
土曜日は午前十一時にマンションの下までお兄ちゃんが車で迎えに来てくれることになった。もっと早い時間でも良かったけど、お兄ちゃんの身体の事を考えると、昼過ぎでもいいと思った。でも、お兄ちゃんが一緒にランチをしようというから十一時に決まった。
 
 自分の中では気にしてないつもりだったけど、土曜日の朝、私はいつもよりも早く目が覚めた。夜が寝付けなかったわけでもないのに自然に目が覚めてしまった。何時ものように起きてコーヒーを飲んだまでは良かった。でも、そこで思考が停止してしまった。

『何を着て行こう』

 いつもよりも念入りにシャワーを浴びて、持ってきた数少ない服の中から少しでも大人っぽい服を選ぶのは少しでもお兄ちゃんと釣り合いたいからだった。それに、日本を離れる前に一緒に行った店となると格式のある店なのでカジュアルすぎる格好も出来ない。鏡の前で何度も何度も着替えて…。結局はシンプルなワンピースにした。

 ベッドの横にある時計の針が示す時間は十時四十五分を回っていた。そっと窓から道路の方を見るとお兄ちゃんの車らしきものが止まっていた。着いたなら電話してくれたらいいのにとも思うけど、お兄ちゃんらしいとも思う。私はバッグを取ると、急いで部屋を出ることにした。

 エレベーターを降りてエントランスを抜けると急ぎ足になってしまう。時間を少しでも無駄にはしたくなかった。

「お兄ちゃん。お待たせ」

 私が車の窓ガラスをノックしながら言うとお兄ちゃんはニッコリと微笑み助手席のドアを開けてくれた。
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