君をひたすら傷つけて
 断れなかったのは私の中にある恋心が思い出を欲しがるからかもしれない。もうすぐ高取くんは私の前から居なくなる。居なくなると分かっている人に恋をした私は思い出が欲しかった。


 出会ってそんなに時間も経ってないのに、私は高取くんが好き。温厚な性格も少し困ったように笑うその笑顔も…。好き。好きに明確な理由はないっていうけど本当だった。理由もないし、いつから好きになっていたのかも分からない。

 
 私は恋をしていた。恋をしている私は少しでも高取くんとの時間が欲しかった。自分の恋心に負けた言葉を口にする。苦しくなるのを知っているのに、自分からその中に飛び込んでいく。優しく微笑みながら話す高取くんを見ながら…自分の恋の終末が見える。

 
「放課後に少しなら大丈夫。今日は塾の授業もないから自習に行くだけなの。でも、誕生日のプレゼントでしょ。私も大人の女の人が喜ぶものってわからないよ。お母さんにプレゼントならお花とかがいいのかな?」

「今回は何か物として残るものがいいんだ。ずっと、残るものがいいんだ。俺一人じゃ入りにくい場所もあるし、藤堂さんにしか頼めない。」


「わかった。じゃ、後からね」

「ありがとう。これ、僕の携帯の番号とメルアドだから」


 そう言って高取くんは私に小さな紙を手渡した。

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