君をひたすら傷つけて
 篠崎海と言う人は…。稀有な才能を秘めた人だというのは一緒に仕事をしてみて分かった。会社としても無理な売り方をするのではなく、篠崎海を日本でも有数の俳優に育てるつもりだというのが分かる。そして、お兄ちゃんにとってはかけがえのない人だというのも分かった。

「後二日が限度だ。これ以上は難しい」

 そうお兄ちゃんが言ったのは撮影が終わった後に行われるミーティングの時だった。最初の予定を大幅に超えていて、スケジュールの組み替えもどうにもならないところに来ていたようだった。

「あれだけ撮影が押してしまうと、高取さんが言うのも仕方ない。で、どうするかだよな。後二日で思い通りの物が撮れなかったら、妥協するかだな」

 妥協するというけど、今までの撮影した映像を見て、何が悪いのか分からないほどの出来だった。これが日本で放映されたら評価されるのは目に見えている。それでもまだ拘るのは橘聖というアーティストゆえのこと。でも、その拘りはリズにも共通している。

「まあ、後二日、祈るしかないな。毎朝、身体を冷やされるのにも慣れたから」

 毎朝、篠崎さんは身体を冷やす極限状態で撮影に臨んでいる。毎朝、寒い中でシャツ一枚なのだから、見ている周りが寒くなるほどだった。

「海斗の身体のケアは高取さんがしているから心配してないよ」

「だからと言って、海の身体を痛めつけるような真似をされても困る」

「出た。高取慎哉の溺愛発言。さ、俺は怒られる前に逃げようかな。あ、リズ。後で俺の部屋に来てくれないか。大事な話があるんだ」

「わかった」
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