君をひたすら傷つけて
 日本ではよく分からないが、フランスでもモデルの中で足の引っ張り合いはあることだった。そのステージに穴が空けば自分が入ることが出来ると言うくらいに華麗だけど激しい世界だった。日本の芸能界で生きている篠崎さんが自分の周りのスタッフを固めたいという気持ちも分かる。

「エマさんもその期待に十分に応えることが出来ると思います」

「これからもエマさんのオフィスとは一緒に仕事をしていくと思うけど、俺は雅さんと一緒に仕事がしたかった。等身大で一緒に頑張ってくれるから」

「海の言いたいことは分かりますが、雅にも雅の考えがあるのです」

「それは分かるけど、高取も一緒に仕事してみて思っただろ。仕事がしやすいって。これからも一緒に仕事をしたいって」

「そうですね。雅と一緒に仕事をしたのは初めてでしたが、正直、ここま仕事が出来るとは思いませんでした。私の中では高校生の時の雅が居て、でも、成長したのだと思いました」

 私とお兄ちゃんとの出会いは高校生の時だった。いつも一緒に居る訳ではなかったけど、それでも私はずっとお兄ちゃんに守られてきた。

「もう、私は大人よ」

「そうだな。もう高校生ではないな」

「さ、そろそろ俺は先に部屋に戻って寝るよ。高取さん。雅さん。また明日な」

 篠崎さんはニッコリと綺麗な微笑みを残して私とお兄ちゃんをその場に残してしまった。ミーティングをしていたホテルの一室はお兄ちゃんの部屋だった。

 あの日から二人っきりになるのは初めてだった。
< 626 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop