君をひたすら傷つけて
「自分を望んでくれるなら頑張るらしい。時間のスケジュールが合えば、全ての仕事を受ける。でも、身体を壊したりしないように私がいる。もう、後悔はしたくないんだ。ずっと、傍に居て、海が必要な時に守ってやりたいと思う」

 お兄ちゃんの中に守れなかった思いが残っている。どうしようもない状況だって誰もが分かっているのに、お兄ちゃんの心はまだ傷が癒えていない。今は、篠崎さんを俳優として大成させること。より高みまで押し上げることがお兄ちゃんの希望であり、生き甲斐なのかもしれない。

「お兄ちゃん。篠崎さんもいいけど、可愛い妹の私も大事にしてね。フランスに来たら絶対に会いに来て。アルベールのこととお兄ちゃんのことは別よ。ニューヨークに来る前に言われたこと。ずっと考えていた。アルベールと恋愛して、もしもその先に結婚したとしても私はお兄ちゃんと二度と会わないとか嫌なの」

「雅はよくてもアルベールは嫌だろう」

「お兄ちゃんにあの日言われたことで泣いたわ。義哉が泣かせるなら仕方ないけど、お兄ちゃんが私を泣かしたりしないで」

 自分の言っていることがどれだけ屁理屈か分かっている。それでもきちんと自分の気持ちは伝えたかった。

「泣いたのか?」

「あんな突き放すようなことを言って泣かないと思ったの?」

「雅の為を思ったら…」

「私のことを思うなら、私のことを自分で決めないで。私は自分のことは自分で決める」

 私がそういうと、お兄ちゃんは少し眉根を寄せた。そして、静かに微笑んだ。

「分かった。今まで通りに私は雅に接するよ。約束する」
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