君をひたすら傷つけて
 フランスから日本に帰る手続きは思ったよりも時間が掛からなかった。元々が語学留学でフランスに来て、住んでいたとはいえ、最低限の物しか持ってない。増えたものといえば、洋服やバックや靴などの装飾品だった。それらは国際貨物で送り、当座の生活に必要なものだけを持って帰る。

 今回はウィクリーマンションではなく、ワンルームの賃貸マンションに住むつもりだった。帰って寝るだけのスペースと服が置ければいいから拘りもないし、部屋はまりえが家具付きの部屋を見つけてくれたので助かった。

 リズも私が日本に帰るのを機に、イタリアに住むことになり、パリのアパルトマンは引き払うことにした。ずっと部屋を借りておくよりは仕事の時だけホテルを借りた方がいいというのと、まりえと私と一緒に過ごした部屋に自分一人は嫌だとリズが言ったからだった。

 全ての手続きが終わり、荷物を出してしまった私たちの部屋は何もない空間になっていた。初めてこの部屋に来た時からリズとまりえが住んでいて、とっても明るく優しい空間だった。でも、何もなくなってしまった部屋も胸に込み上げる思いがある。

 ここで出会い。ここで始まった。
 それは変わらない。

「お互いに頑張るためにスタートね」

 リズはそういうとニッコリと笑った。そして、二人でカギを締め、アパルトマンの下に呼んでいたタクシーに乗ると、そのまま真っすぐ空港に向かう。

 リズはイタリアに……私は日本に向かう。
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