君をひたすら傷つけて
 車を駐車場に入れてから、マンションに戻って、自分の部屋を見上げると、明らかに電気が付いていた。

「朝、消し忘れたのかもしれないから」
「それならそれでいい。このまま、雅を一人で帰らせるわけにはいかない」

 実際、消し忘れたのか覚えてないから、素直にお兄ちゃんの言葉に従った。エレベーターで自分の部屋の階まで行くと、廊下を真っすぐ自分の部屋に向かって歩いた。エマの事務所からも近く、それでいて、家賃も安かったからこのマンションを選んだけど…。

 玄関のドアにバッグから取り出した鍵を差し込むと…。カチャっという音はせずに静かに回る。鍵は掛け忘れたようだった。ドアを開けて中に入ると、そこは朝、出た時とまるで変わらなかった。

「単なる電気の消し忘れで、鍵の掛け忘れだと思う」
「ここで待っているから、部屋の確認をしてきて」

 どこにでもあるワンルームマンション。入ってすぐに小さなキッチンと、反対側にはユニットバス。短めの廊下を行くと寝室兼リビングルームがある。お兄ちゃんは玄関から入って来ずに、私が自分の部屋に入るのを見つめていた。

 リビングに抜けるドアを開けると、何も変わってないように見えた。でも、残念ながら誰かが入った形跡はあった。ベッドの横のチェストも、引き出しは閉まっているけど、開けたらぐちゃぐちゃ。クローゼットもドアを開けると中はぐちゃぐちゃだった。

「お兄ちゃん。どうしよう」
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