君をひたすら傷つけて
「雅。入るぞ」

 私の部屋に入ってきたお兄ちゃんは開かれたクローゼットの中を見て、眉間に皺を寄せた。

「警察に連絡する。現場は動かさない方がいい」

 お兄ちゃんは携帯で警察に電話すると、そんなに時間を掛けずに警察が来てくれた。警察の人の話によると、この近辺ではマンションを狙った空き巣が多く発生しているようだった。私はフランスにいた時の癖からか、貴重品は基本的に自宅には置かないようにしていたが、少しの現金とクローゼットの中にあったバックがいくつか消えていた。

 大事にしていたものだったから、金額的というよりはそのものを失ったことが落ち込ませた。鍵を掛けてでたはずなのに、なんで、こんなことになるのだろう。女性の一人暮らしだからと、オートロック式のマンションを選んだのに…。こんなことになるとは思わなかった。

「これで一応の現場検証は終わります。犯人が特定できれば連絡します」

 それだけ言って帰っていった警察の後ろ姿を見ながら私はため息を零した。被害届が受理されて、警察が帰ると私はソファに腰を下ろした。さっきまでの撮影で高揚した気分は霧散した。

 お兄ちゃんは携帯の画面をいくつか開いては消し、開いては消していた。そして、眉間の皺は濃くなるばかりだった。

「お兄ちゃん。色々とありがと。後は自分で出来るから。もう、帰っても大丈夫だよ」

「どこが大丈夫なんだ。空き巣の入った部屋に雅を一人で置いて帰るわけにもいかないだろう」
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