君をひたすら傷つけて
 いくつかのドレスを選び、試着してもらって決めたのは一番最初の上半身が黒のビスチェでスカート部分がアイボリーのもの。これは本当に似合っている。

「やっぱり最初のが一番似合っていた」

「私には豪華すぎるような気がして」

「篠崎海の傍に立つならこれくらいのお洒落はしないと。さ、後はもう一枚ドレスを買わないと」

「もう一枚ですか?」

「これは篠崎くんというより、高取さんから頼まれているものなの。何かあった時に着るものをね」

「何かあった時?」

「今のところない予定だけど、記者会見があった時とか、人前に出ないといけない時にね。結婚式とは違うから、上品で清楚な印象の物が必要なの。里桜ちゃんはそのままでも可愛いし、清楚なイメージがあるけど、相手が篠崎くんとなると横にいる女性の着ているものはそれなりでないと彼のイメージを損なうの」

 一般人の里桜ちゃんがマスコミの前に出ることはないけど、もしもの時の為に準備をすることになった。ないよりあった方がいい。

「さてと買い忘れはないかな。時間が結構経っているから急ぎましょ。篠崎くんに会う前にもうひと仕事があるのよ」

「何があるのですか?」

「私の仕事が残っているから、ちょっと付き合ってくれる??」

「はい。あの、さっきの服とかありがとうございます」

「お礼は篠崎くんに言ってね。彼の要望だから」

「雅さんの時間を取らせてしまってすみません。でも、楽しかったです」

「私もよ。さ、行きましょ」

 私は里桜ちゃんと一緒にタクシーに乗り込むと篠崎さんの待つレストランのあるホテルに向かった。レストランに連れて行ってからが大変だろうと分かっていたけど、横に座り緊張に包まれている彼女を少しでも楽にさせたいと思った。

 案内したのは、最上階にあるレストランではなく、下層階にある一室だった。ここにはさっきの店で買ったワンピースと靴、バックなどが届けられていて、それだけでなく、私のメイク道具も一式持ち込まれてあった。

「さ、これから里桜ちゃんを可愛くしてあげる」
< 709 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop