君をひたすら傷つけて
 スタイリストという仕事をしていて、フランスでも日本でもメイクなどもいくらでもしてきた。オートクチュールのコレクションのランウェイを歩くモデルをメイクしたことも何度もある。でも、普通の女の子のメイクは自分の顔をする以外はしたことがなかった。

 里桜ちゃんの顔立ちは普通だった。どこにでもいるような普通の会社に勤める普通の女の子で、俳優篠崎海の隣に並ぶには光が足りない。でも、私は好意を持っていた。一緒にいた時間は短かったけど、話していて、本当に楽しかった。

 性格の良さは話していて分かったけど、驚いたのはメイクをしていく度に花が開くように可愛くなることだった。頬に乗せるブラシは微かなのに、ふわっとチークが肌に馴染み、メイクではなく、本来の頬のように見える。睫毛もマスカラをちょっと足しただけなのに、ぱっちりとするし、素材としてはそそられる女の子だった。

 あれも、これもしてあげたいと思う。もっと可愛らしくしてあげたいと思う。髪を巻き、カールを作ると、それをいくつも作っていくことにした。里桜ちゃんを最大限に引き出すのはゴージャスである必要はなく、可愛い方がきっと似合う。巻いた紙を緩やかに編んだ三つ編みを多用してアップスタイルにする方がきっと似合う。うなじの辺りもスッと伸びていて綺麗だから、きっと何でも似合うはず。

 淡い水色のワンピースはノースリーブで肩の華奢さが際立つけど、あえてそれを隠すレース編みのカーディガンを合わせることにした。足元もパンプスではなくバレーシューズにした。篠崎さんは身長があるからパンプスでもいいけど、里桜ちゃんの雰囲気ならバレーシューズの方が似合うと思った。



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