君をひたすら傷つけて
 その間に、私はさっき、買い物した服や小物を開いていき、タグを切る。そして、ハンガーや引き出しに片付けられる状態にした。お兄ちゃんが家具の配置をしている間に私が服などの処理をしたので、時間を経るに従って、リビングのソファの横にはどんどん空の段ボールが積みあがっていく。

 家具の配置が終わり、部屋の掃除まである程度終わると、私が服類をクローゼットに入れていくことになった。どんな組み合わせをしても簡単に似合うような色を選び、並べるとクローゼットは一杯になる。どんな会社のシーンでもプライベートでも対応できるだけの服を用意した篠崎さんの本気度は凄い。

 リビングではお兄ちゃんが段ボールを片付け終わっていた。

「雅。そろそろ終わったか?あれから、二時間くらい経つので海が帰ってくるかもしれない」

「もう終わったわ。これなら里桜ちゃんもゆっくりとした時間が過ごせるかな」

 ドラッグストアで買ってきたものを並べ終わると全てが終わりだった。どこまでも普通の里桜ちゃんがこの部屋を見て驚くのは仕方ないけど、それでも『いい』と思って欲しい。少しでも楽しい時間を、幸せな時間を過ごしてくれたらと思う。

「だといいな。さ、終わったら飲みに行こう。俺も食事が終わったら、明日からの撮影の準備をしないといけない」

「明日の朝は何時なの?」

「朝の五時にまたここに来ることになる。で、もう一つ悪いけど、明後日の月曜に里桜さんのアパートからここに引っ越しをさせるので、その手伝いをしてくれないか?」

「私が?」

「ああ。でも、それは海が里桜さんに話をしてからだけど。海は里桜さんが一人で引っ越しをしている時に元カレが来たらと思うと心配らしい」

 人気俳優篠崎海の心配事は…。

 普通の男の人の心配事と変わらなかった。
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