君をひたすら傷つけて
 そして、次の日。

 一日早く私は京都入りすることになった。映画はいくつもの場所を移動しながら撮影をしていくため、セットは最小限。でも、カメラを通してみても東京で撮影したものもあれば、その映画の一部のシーンを日本全国に移動して撮影していく。今回の映画のワンシーンが京都でされることになっていた。

 監督は最初、京都の風景を合成で行うという意見を『リアリティ』がない映画に価値はないと言い放ち、一部の撮影チームだけで京都入りした。俳優も主人公の篠崎さん以外は現場に入ったり出たりとなっていて、スタイリストの数も最小限に削られている。リアリティにはお金が掛かる。無尽蔵にあるわけではない製作費を配分するのも大変なのだろう。

 私はスーツケース一つだけ持って京都にやってきた。ホテル住まいになるだろうし、必要最小限にした。撮影は一週間だから、不便は仕方ない。

 まりえから転送された撮影場所に行って、それから、泊まるホテルを探して。明日からの撮影に備えるのが第一だった。

「不安すぎなんだけど」

 私がそんな呟きを零しながら京都に降り立ち、ゲートを抜けると、そこにはお兄ちゃんの姿があった。

 到着する時間は伝えていたけど、今は撮影の最中だから、迎えに来ることはないと思っていた。でも、お兄ちゃんは私の姿を見ると目を細めて微笑んだ。

「撮影は?」

「進んでいるよ」

「篠崎さんについてなくていいの?」

「海が雅を迎えに行くようにって。海は一人でも大丈夫だよ。それよりも雅をホテルに送りながら、これからのことを説明する。これも仕事だから」
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