君をひたすら傷つけて
「本物なら怖いです」

「怖くないわ。やっぱりこれがいいかな」

 いくつかあるダイヤのネックレスの中で、最初に合わせたピンクダイヤのネックレスが一番似合っていた。お揃いのイヤリングをつけると、里桜ちゃんは不安そうな顔をした。

「里桜ちゃん。そんなに怖がらなくていいから。だって、篠崎くんが一緒にいるでしょ。だから、何も心配する必要ないわ。さ、篠崎くんの驚く顔を見に行きましょ。きっとあまりに里桜ちゃんが可愛いから篠崎くんは動揺するかもしれないわ。あの冷静沈着な篠崎くんの表情が楽しみよ」

 私が里桜ちゃんの部屋を開けると、リビングで打ち合わせをしていたお兄ちゃんと篠崎さんの会話がピタッと止まった。

「里桜さん。とっても綺麗です」

 そう言ったのはお兄ちゃんだった。篠崎さんはというと……。ものの見事に固まっていた。いつもなら真っ先に里桜ちゃんのことを誉めると思うのに今日は言葉を忘れたのか出てこないようだった。

「ありがとうございます。雅さんが用意してくれたアクセサリーで緊張しています。なんだか自分ではないように思えて」

 緊張しながら話す里桜ちゃんにいつも通りに対応するお兄ちゃんに比べて、本当に篠崎さんは何をしているのだろう。自分だってきっちりとスーツを着込んでいて、臨戦態勢なのにも関わらず、固まったまま。一応、顔は微笑んではいるけど、里桜ちゃんの可愛らしさに一言くらいあってもいいと思うのに……。

「海も何かないのですか?」

 お兄ちゃんに促された篠崎さんは少しだけ顔を顰めてから微笑んだ。

「時間がない。さあ、いくぞ。教会での結婚式なら俺が行ってもいいだろ」

「海斗さんは私を送ってくれるだけではないのですが?」

「俺も結婚式に参加する」
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