君をひたすら傷つけて
 篠崎さんは最初から結婚式に乗り込むつもりで、私もお兄ちゃんもそう思っていたけど、里桜ちゃんだけは篠崎さんが会場まで送ってくれて、結婚式には一人で出るつもりだったみたいだ。そんなことを篠崎さんがさせるわけはないと思う。

 堂々と一緒に参加するだろう。

「結婚式に俳優の篠崎海が出席すると大変なことになると思います」

 そんな里桜ちゃんの言葉にさっきまで固まっていた人とは思えないくらいはっきりとした口調で篠崎さんは言った。

「俺は『俳優篠崎海』で出席するわけではない。俺は『藤森里桜の婚約者』として出席する。それなら急に結婚式に参加したとしても里桜の友達や知り合いに何もいわれることないだろ。俺に全部任せておけばいい」

 そんな篠崎さんの言葉に里桜ちゃんの顔が少しだけ緩んだ。篠崎さんの言葉はそれだけ里桜ちゃんを安心させたのだろう。きっと、今から、本当に辛い思いをすると思う里桜ちゃんを篠崎さんはきっと支えるはず。

「高取さん。雅さん。色々とありがとうございました」

「里桜ちゃんはとっても綺麗よ。誰よりも綺麗だから胸を張って。下を向かないで。怖くなったら篠崎くんを見るのよ。篠崎くんなら里桜ちゃんのことを守ってくれるから」

「里桜。さ、行こう」

 篠崎さんの強い言葉に頷いた里桜ちゃんは篠崎さんと一緒にマンションから戦場のような結婚式に向かって出掛けて行った。そんな二人を見送ってから、私とお兄ちゃんは片づけをしてから帰ることになった。

 二人が消えたドアを見ながら、大きな溜め息を零したのはお兄ちゃんだった。

「行ったな」

「ええ」

「全く仕事にならなかった」

 私が里桜ちゃんの部屋に入って軽く一時間は掛かっている。その間にお兄ちゃんは篠崎さんとスケジュール確認と諸々の作業をするつもりだと言っていた。撮影で遅れたスケジュールの変更を一つ一つ確認するのに時間が掛かる。

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