君をひたすら傷つけて
 それでも一人の女の子の準備は時間が掛かる。

 待っている間、充分な時間はあったはずだった。何度かお兄ちゃんと篠崎さんのスケジュール管理をしているのを見たことがあるけど、二人はあうんの呼吸で、言葉少なに終わらせる。でも、今日に限っては終わってないようだった。

「え?なんで?いつもは終わるよね」

「普通ならな。仕事のスケジュールの確認はしたけど、多分、海の頭には何も残ってない。里桜さんのことが気になって気になって、ドアばかり見つめていたから。とりあえず今度の映画がのセリフを覚えるくらいしてくれるといいけど」 

「なら、なんで里桜ちゃんを誉めないの?あんなに可愛いのに。綺麗だって言ってあげたらもっと里桜ちゃんは自信を持っていけると思うのに」

「どんな綺麗な女優と一緒に仕事をしても、眉一つ動かさず、いくらでも美辞麗句が溢れる海が里桜さんの前では何も言えない。まあ、言葉が出ないほど心を奪われたんだろ。

 実際に里桜さんは綺麗だったと思う。里桜さんは可愛らしい方だとは思うが、今日は雅の技術で一段と綺麗だった。さすが、雅の技術だと誇らしくなったよ」

 お兄ちゃんに認められるのは嬉しいけど、手放しで褒められると背中の辺りがムズムズしてしまう。

「ありがと。リズの傍で一生懸命勉強したから、その成果が少しは出たかも」

「雅の努力だよ。さ、そろそろ帰るか。海と里桜さんが戻る前に部屋を出て、マンションに戻ろうか。二人が戻って来た時にいない方がいい」

「結婚式に参列するなら昼過ぎにならないと帰らないと思うけど?」

「いや。そんなに時間を掛からないうちに戻ると思う。俺が海でもそうする。大事な女が見世物になるのを我慢できるわけがない」
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