君をひたすら傷つけて
 気付けは外は既に陽が沈んでいて、部屋の中は微かな夕焼けの光が残っているくらいで、自分がいつの間にか寝てしまっていたのだと思った。
 
 私が自分の部屋から出ると、お兄ちゃんもリビングでテレビを付けたまま寝ていた。普段、あまりうたた寝をしないお兄ちゃんにしては珍しいことで、家でもあまり自分を出すことのないお兄ちゃんがソファで寝ている。

 周りの光量に反応して点灯する間接灯だけがリビングを照らしていた。

 篠崎さんの映画の撮影に同行して、それからここ数日の忙しさを考えると無理もない。篠崎さんのスケジュール調整から、今日の結婚式までの間にどれくらいお兄ちゃんは時間を割き、篠崎さんの為に尽くしたのだろう。

 既に冷えたコーヒーが半分だけ残されていて、テーブルの上にあり、その近くには分厚くなってしまっているスケジュール帳がある。タブレットでの管理もしているけど、お兄ちゃんは必ず手帳に万年筆で書きこんでいる。

 風邪を引いてはいけないと思い、部屋からブランケットを取ってきて、お兄ちゃんの肩に掛けると、ガラスのテーブルの上の携帯が響き、お兄ちゃんの目が開いた。

「雅」

「風邪ひいたらいけないと思って」

「寝てたのか」

 そう呟くように言うと、お兄ちゃんは携帯を取り、画面を見つめると顔を顰めた。

「はい。高取です。ああ。里桜さんは?そうか……。ああ。分かった。すぐ行く。」

 淡々と話すお兄ちゃんの表情はどんどん強張っていき、握った手の指先が白んでいる。電話を切ったお兄ちゃんは薄暗いリビングの中、私を見つめた。

「海と里桜さんが撮られた。今から行ってくる」

「撮られたって?結婚式で?」

「いや。どうも違うらしい。海の話だと面倒なことになりそうだ。遅くなるから雅は先に寝てろ。今日、帰れないかもしれないから」
< 742 / 1,105 >

この作品をシェア

pagetop