君をひたすら傷つけて
「どんな記事なの?」

 お兄ちゃんは持っていたバッグの中から一枚の紙を取り出した。

『篠崎海。恋人と焼肉デート。毎晩、マンションに泊まる彼女は一流企業に勤める一般人。乱れた生活が……』

 無造作に折りたたまれた紙は週刊誌の一ページをコピーしたようなもので、映りがとにかく悪い。でも、篠崎さんと里桜ちゃんが映っている。それも一枚ではなく何枚も何枚も映っている。どう考えても狙われていたとしか思えなかった。

「これって可笑しいよ。だって、なんでこんなにいっぱいの写真があるのに、焼肉に行った次の日に急いで掲載されるなんて」

「そうだな。時期がバラバラだ。焼肉だけでなく、それ以外の写真がある。つまりは今の時期に合わせて記事を出したのだろう。映画の撮影も殆ど終わっているこの時期だから、ダメージが大きい。

 海のマンションに一般女性が通っているという記事だが、その言葉の端々に海を貶めるような言葉があり、どう考えても今回の仕事の邪魔だが、時期が悪すぎて、明日の朝に記事が出てしまうから、明日の11時に発売されてすぐに記者会見を開くことになった」

「里桜ちゃんは関係のない、一般女性で友人の一人ってするの?」

「いや、結婚することになった。社長が嘘を誠にすればいいと言い出して、状況を説明していたら、里桜さんが申し出てくれて」

「まさか、だって、偽装結婚でしょ。結婚したら、里桜ちゃんはどうなるの?里桜ちゃんの人生が無茶苦茶になる。つい、昨日、あんなに辛い思いをしたばかりなのに」

「マンションに出入りする一般人の女性というよりは、婚約者が一緒に住んでいるという方が海にとってはいい」

「それは分かるけど」

「それに、海は里桜さんのことを本当に愛している」

「同情ではなくて?」

「ああ。本気で思っている」

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