君をひたすら傷つけて
「篠崎さん。なんか本当に溺愛って感じね」

「一目惚れらしいからな。でも、神崎に写真を撮らせるのも妥協らしい。本当は橘聖に撮らせたかったらしい。でも、橘聖は忙しいから神崎で妥協」

 その辺のインスタント写真でもいいパスポートの写真を神崎くん、いや、ニューヨークで活躍中の橘聖に依頼しようとするところからして、感覚が可笑しいと思う。でも、お兄ちゃんの口調からしてかなり本気だったのかもしれない。カメラマンとしては橘さんが上手なのは分かるけど、一流カメラマンに証明写真を撮らせるのは酔狂だ。

「私はいいけど。里桜ちゃん大好きだし。でも、橘さんでも神崎くんでも普通は証明写真は撮らないと思うけど」

「普通は絶対にない案件だが、海がどうしてもと言えば、何とかなる。これがニューヨークでのことなら、聖はきっと里桜さんの証明写真を喜んで撮るだろう。神崎も海の頼みは断れない。傍若無人という言葉が合う橘聖にとって、海は特別なんだ」

 お兄ちゃんがそこまで言うなら、構わない。神崎くんのことは嫌いじゃないし、才能のあるいい子だと思っている。

「わかった。里桜ちゃんの会社に行ってくる。写真を撮ってたら、どうしたらいいの?」

「早い時間に里桜さんにパスポートの必要な書類を届けておくから、雅は神崎と一緒に里桜さんの会社に行き、写真を撮って、それから、書類を持ってきてくれ。本当は海が自分で行きたいらしいが、海に行かせると、わざわざ結婚したことを会社に隠している意味がなくなるから」

「そうね。あの記者会見の意味も木っ端みじんね」

「その代わりと言ってはなんだが、イタリアでの映画祭のスタイリングを全てエマさんの会社に依頼する。雅はスタイリストとしてイタリアでの映画祭に参加。滞在費は全部、ウチの事務所で持つ」
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