君をひたすら傷つけて

静かに思うこと

 雅人のアトリエはタクシーで少し行った場所にあった。都心にあるアトリエは既にドアにはクローズの札が掛けられてあった。でも、店内には人影はないけど、明かりはともされたままだった。ドアを開けると鍵は掛かってなくて、スッと開いた。

「こんばんわ。阿部さんいますか?」

 そういうと、一番奥のドアが開き、出てきたのは雅人だった。店はクローズされてあるから、いなかったらどうしようかと思ったけど、雅人が出てきてくれてよかった。雅人はラフな服を着て、仕事が終わったような雰囲気を漂わせていた。

「雅。早かったな」

「うん。タクシーで来たから。もう、アトリエは締めたの?」

「ああ。スタッフとかには聞かれたくなかったから。俳優篠崎海となると、スタッフが色めき立つ。だから、今日は帰って貰った。話はどこかで食事をしながらにしないか?」

 前から食事には誘われていたから、いい機会だとは思ったけど、男の人と一緒に食事に行くのはお兄ちゃんとアルベールだけだから、同級生とはいえ、少し戸惑った。

「いいけど」

「近くに女の子が好きそうな創作料理の店があるから、そこでいい?」

「うん」

 雅人が連れてきてくれたのは、アトリエから歩いてすぐの可愛らしい店で、雅人の言う通り、女の子が喜びそうな店だった。

「この店、よく行くの?」

「いや。今日が初めて。見た目も綺麗だし、美味しいって店のスタッフが言っていたから」

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