君をひたすら傷つけて
 雅人の言うことは一理あった。

 篠崎さんがアトリエに現れるとなると、スタッフは色めき立つだろうし、どこで情報が洩れるか分からないから、アトリエを締めてからでないと、着付けなどは出来ない。ドレスを着せるのには一人では時間が掛かるけど、出来ないことはない。

「分かった。私が手伝う。フランスでもドレスを着せたことはあるし。時間は掛かるかもしれないけど」

「それと、決めるのは二人に会ってからでいいかな?いくら俳優とはいえ、それだけで仕事を受けるつもりはないんだ。俺の作ったドレスを大事に思ってくれる人でないと無理をしてまで作りたくない。我儘だけど、これが俺の本音だよ」

 デザイナーの中には似たような人も多いので、雅人の言うことは分かる。でも、出来れば、雅人に受けて欲しいと思うのは私の本音だった。雅人に断られたら、完全なオーダーメイドでのドレスは難しくなる。既製品か、よくて、セミオーダーになるだろう。

「わかった。雅人の言うとおりにする。篠崎さんの仕事もあるから、早々に連絡して、来てもらうよ。で、雅人はいつならいいの?」

「明日か、明後日。一か月しかないなら、受けるにしても受けないにしても、早い方がいい。時間は夜の七時以降。それ以前は別の仕事が入っている」

 私はお兄ちゃんに雅人との話の内容を簡単にメールすると、すぐに返事が来た。

『ありがとう。明日、伺うって伝えてくれ。それと、後から迎えに行くから。食事が終ったら連絡してくれ。その店の近くに行くから』

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