君をひたすら傷つけて
「雅との再会を祝して。美味しい食事には美味しいワインが必要だろ。今日は大事な雅との久しぶりの再会だから、スパークリングワインがいいと思わないか?このワインは俺の会社のワイナリーで作っているものだよ。雅に飲んで欲しくて持ってこさせた」

 アルベールは手慣れた風にグラスにスパークリングワインを注ぐと、その一つのグラスを私に持たせた。

「アルベールの会社?」

「そう。一族経営だけど、オリーブオイルやワインも作っている。他にも色々と仕事はあるよ。レストランとかも経営しているけど、一番最初は農産物を育てることから始まっている。その中でも力をいれているのがワイナリーだよ。自分でいうのも可笑しいけど、かなり美味しいと思うし、それだけの自信がある。ワインの本場だからかもしれなけど、有名ワイナリーに負けないくらいに美味しいよ」

「順調みたいね」

「最初、叔母の後を継いだ時は結構厳しかった。保守的な意見を持つ社員と、革新的な意見を持つ社員がいて、その間に挟まれた。話を聞いてみるとどちらにも利がある。でも、その間を取り持ちながら、事業を覚えるのは正直逃げ出したかったよ。それに元々がビジネスの世界にいた人間じゃない。ただ親族というだけで後継になったから、反発も凄かった」

 フランスで一流と言われたモデルであったアルベールが叔母様の死去に伴い、後継者になったのは周りから見てもかなり無理がある選択だったと思う。でも、今のアルベールの表情を見ていると苦労をして、やっと今の場所まで来たのだと分かった。

 アルベールはワインをグラスに注ぐと私の手に持たせた。シュワシュワと泡が浮かび、炭酸が揺れていた。

「雅との再会に乾杯」
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