君をひたすら傷つけて
「橘さんって子どもがいたの?」

「つい数年前まで聖自身も存在も知らなかったらしいけど、容姿は聖に似て本当に綺麗な子だよ。性格は彼に似なくて、奥さんに似ているようだよ」

「いくつ?」

「確か10歳になると思う。高校生の時の子どもだよ」

「その奥さん。本当に橘さんのことが好きだったのね。そうじゃないと一人で産んで育てるなんて出来ないと思う」

「当時、聖のモデルとしての人気は凄かったから、身を引いたとは聞いている」

「もしも、当時子どもが出来たことが分かれば、事務所としてはどうなるの?」

「そうなってみないと分からないけど、高校生で子どもが出来たとなると仕事が厳しくなるとは思う。どんなに綺麗ごとを言っても、モデルも俳優も人気が全てだから別れさせたかもしれない……」

「そうなのね」

 冷たいようだけど、それが現実なのかもしれない。

「ただ、当時、もしも聖が彼女の妊娠のことを知っていて、結婚したいと言い出したら、俺は出来るだけ力になりたいと言ったと思う。授かった命を大事にしたいと思うから」

 お兄ちゃんはずっと身体の弱い義哉のことを守ってきていた。そんなお兄ちゃんならきっと力になったと思う。


「海は自分の結婚式に花を添えた形になって……。幸せそうで本当によかった。雅の方も里桜さんのご両親のこと。本当にありがとう。雅がいてくれたから、安心してミラノで映画祭に出席出来た」

「里桜ちゃんのご両親は本当に気さくで楽しかったから大丈夫よ」

「それならよかった。普通、初対面の知り合いの両親と一緒に観光とか疲れるだろ。一緒にいてくれるから安心するけど、雅のことは気になってた。無理してないかって」

「大丈夫。だって、少し距離はあるけど、パリで生活していたし、イタリアにも何度も来たことがある。だから、大丈夫。ただ……。」
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