君をひたすら傷つけて
「ただ?」

「アルベールに会ったわ。里桜ちゃんを空港に送っていった時に。いきなり再会したから驚いたけど、元気そうだった。一緒にワインを飲んで別れたわ。フランスで仕事があるらしくて、それまでの時間だったから」

「アルベールにやり直したいと言われたんだろ」

 アルベールと一緒にいると、パリで頑張って仕事をしていて、その若い時のがむしゃらな情熱を思い出す。あの時、アルベールを愛していると思ったのは嘘じゃない。あの時の私の素直な気持ちだった。でも、今は少しだけ違う。恋と愛の違いを感じている。

 私はアルベールと二度目の恋をした。好きだったけど、それが愛かと言われたら、それは分からない。あの時の私は愛だと思っていた。でも、今の私の中での愛は違う気がした。

「何で?」

「彼とは嫌いで別れたわけではないだろ。あの時と今では状況も違うし、彼は本気で雅を愛していたからやり直したいと思っていても可笑しくない」

 愛しているという言葉は重い。私は今も昔も義哉が一番で義哉が心の中から消すことが出来ない。初恋の痛みがずっと私を縛っている。

「言われたけど……。もう道が違うから」

「それでいいのか?」

「うん。これからは友達なの」

「そうか。俺は…雅が幸せになって欲しい。それだけを願っている」

「ありがとう。でも、私もお兄ちゃんの幸せを願っている。篠崎さんも賞を取って、結婚式も行う。次はお兄ちゃんが幸せになっていいと思うの。ずっと義哉とか篠崎さん、そして私のこともだけど、ずっと人のことを考えて生きているでしょ。そろそろ自分のことを考えてもいい頃よ」

「そうだな」

 お兄ちゃんはそれだけいうと、私の肩をポンと叩いて、行ってしまった。
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