君をひたすら傷つけて
 季節の移り変わり。

 春には春の。夏には夏の。秋には秋の。冬には冬の…。

 彩りがある。

 季節の移り変わりの中で私は生きている。寄り添って生きることの大事さを改めて感じるのは私の心がゆれているからかもしれない。

 一人で生きていくことが出来るのに、二人で歩くことを選んだ篠崎さんと里桜ちゃんは幸せそうに見える。二人の幸せを祈る気持ちは多分にある。でも、心の奥底がざわざわするような気がして、胸に手を押し当てたけど、いつもと変わらない心音だけを手に感じていた。きゅっとなるような息苦しさを感じていた。

 篠崎さんと里桜ちゃんの結婚式は静かに始まった。

 ドアが開いたと同時に流れるのはパイプオルガンの優しい音だった。教会の祭壇の横に重厚な雰囲気を漂わせるパイプオルガンがある。そこから教会内に響く音は柔らかいのに心を震わせた。お腹の底まで響くような優しい音は包まれるような強さを持っていた。

 パイプオルガンの音が私を苦しくさせた。緊張の余りに身体が硬直しているのかと思ったけど、そうではない。

 拍手と共に入場し、真っすぐに篠崎さんの方に向かっていく。

 おじ様と手を組んで入ってきた里桜ちゃんはスポットライトを浴びたような輝きを放っている。ごく普通の女の子がこんなにも変わる瞬間を見たことはない。今までモデルが衣装やメイクで様変わりするのを見たことは何度もある。でも、普通の女の子がこんなにも可愛らしく変身するのはみたことがなかった。幸せの美しさを体現していた。

「綺麗」

 そんな呟きが零れた。
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