君をひたすら傷つけて
 リズの声は思ったよりも大きくて、教会の中に響くから、周りの人の視線が私に注がれた。恥ずかしいと肩を竦める私を一人置いて、リズは控室の方に向かっていった。お兄ちゃんは私の前に立つと、心配そうな表情を見せ、私を見つめていた。

「大丈夫か?」

「うん。感動したの」

「そうか。今から、色々な段取りがある。その段取りだけしてくるから、雅はここで待てるか?」

「うん。でも、本当に大丈夫だから。私の事は気にしないで」

「10分で戻る」

 私はそのまま静かになっていく祭壇の前に座り、ステンドグラスを眺めていた。胸の奥に残る苦しさを吐き出すように深めの呼吸をする。そして、目を開けると、目の前にある聖母マリア像が優しく微笑みかけているように感じた。

 お兄ちゃんが戻ってきたのは本当に10分後だった。

「悪い。待たせたな。里桜さんの支度はリズさんがしてくれている。結婚パーティの会場の件は聖がしてくれる。だから、何も心配しないでいいよ。さ、そろそろ挨拶に行けそうか?」

「私に気にしないで、お兄ちゃんは自分の仕事をして」

「結婚パーティと言ってもここにいる人くらいしか参加しないのだから、気を使いし過ぎる必要はないよ。それに、もうマネージャーの仕事は終わり。海は自分のことは自分で出来る。でも、今は雅が落ち着くのが先だよ。

 ……。そんなに雅が泣くのを見るのは久しぶりだな。そんなに式に感動したのか?」
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