君をひたすら傷つけて
 お兄ちゃんは私をそのままベッドに寝せると、膝立ちのまま私を見つめていた。スーツの上着を脱ぎ捨て、ネクタイをその上に無造作に外すと、その上に置いた。そして、私の身体を包み込むように抱き寄せるともう一度唇を重ね、私を見つめた。

 明るい部屋の中で私の身体を抱き寄せるのはお兄ちゃんで、私を見つめる表情はいつも通り優しい。張り詰めた空気を解すように私が息を吐くと、お兄ちゃんはそのまま、身体を話して、私を見つめた。明るい光の中でお兄ちゃんは静かに私を見つめる。

 身体が硬直したかのように私はお兄ちゃんを見つめるしか出来なかった。

「俺のことどう思う?」

「え?どういう意味?」

「そのままだよ。元々駆け引きなんかするのは苦手だから言う。結婚を前提にこれからも一緒に居たい。雅が俺を愛してなくてもいい。他に好きな男がいてもいい。雅に俺が望むのは…ただ、傍に居て欲しいだけ」

 お兄ちゃんの表情は真剣で、その言葉の一つ一つに重みを感じる。イタリアでの夜、とても優しかったけど、今日のお兄ちゃんは少し怖い。いつもと違うお兄ちゃんに戸惑う私は拒絶というより、どう自分を処していいか分からなかった。

 それに今の状況では、逃げ道を残してくれない。

「ちょっと待って。いきなり過ぎて、気持ちがついていかない。イタリアのことは私の我儘だから、忘れてくれていい。篠崎さんと里桜ちゃんの結婚式に感動しただけだから」

「これ以上待つ必要はないだろ。六年以上も待ったから、これ以上、待たせないで欲しい」

「いきなり過ぎて。それに六年って」
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