君をひたすら傷つけて
 私はお兄ちゃんの部屋から自分の部屋に戻ると、自分のベッドに身体を預ける。地球の重力に誘われるように涙の膜を張っていくのを感じた。

 フィレンツェの夜。私の身体は熱に包まれていた。吐息に焦がれるようにお兄ちゃんの首に手を回し、揺れる身体を、愛を身体に刻みつけた。胸の奥が温かくなったし、包みこまれる腕の強さに幸せだと感じた。

 六年もの間の時間をお兄ちゃんは私を思ってくれたという。

 でも、兄のように慕う私を思い、自分の気持ちを出すことなかったという。そんなお兄ちゃんの壁を砕き、そして、また、もっと高い壁を作る。

 最低な私だと思う。

 寂しいからと言って、心が震えたからと言って、傷つけていい人ではない。そんなことは一番私が分かっているのに、私がお兄ちゃんを傷つけた。フィレンツェの夜が無ければ、私はお兄ちゃんの傍に居られたけど、お兄ちゃんの気持ちを知ってしまった今となってはここにいることは出来ない。

 そう思うと、また悲しくなる。自分で自分の首を絞めている気がした。


 何度も寝がえりを打ちながら寝ることが出来なかった私は、いつもより早い時間にキッチンに行き、コーヒーを飲むことにした。カフェインをとって寝れるとは思えないけど、それでも気持ちを落ち着けるにはいい。自分の身体を抱きかかえるようにソファに座ると、私は自分のマグカップに口つけた。

 いつもはカフェオレなのに、今日はブラックコーヒーを飲む私は苦さに顔が歪むのを感じるけど、今日は何だろ。苦みが欲しかった。
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