君をひたすら傷つけて
「帰国後の海のスケジュールを確認して、雅にはすぐに連絡するよ。急なテレビ出演や雑誌の取材も入ると思う。社長のところに自分の把握してる以上の仕事が来ていたら、かなり大変だろうな。」

「篠崎さん。有名な映画祭で受賞したし、日本に帰ってきたら忙しいよね」

「だな。でも、嬉しい悲鳴だよ。それと、今日は打ち合わせも色々と入っているし、マンションに帰ってくるのは遅くなるから、寝ていていいから、それとも忙し過ぎたら帰れないこともあるけど、仕事だから」

「分かっているわ、仕事が忙しいの」

「雅も仕事頑張れよ。撮影が入りだすとエマさんの事務所にオファーさせてもらうから、すぐに雅のスケジュールも真っ黒になるよ。身体には気を付けて」

「エマが喜ぶわ」

「そうだな。でも、、雅の仕事ぶりはいつも見ているから安心できる。じゃ、そろそろ行くから」

 そういうと、お兄ちゃんはマグカップをキッチンに持っていき、軽く洗ってから私の方を見た。本当にいつも通りなのが私を戸惑わせる。自分で拒絶しながら、どこか甘えてしまう。

「行ってらっしゃい」

「ああ、行ってきます」

 お兄ちゃんがマンションを出ていくと私はリビングのソファに座ったまま、これからどうしたらいいのだろうかと思った。いつも通りにしてくれたのはお兄ちゃんの優しさだった。でも、このまま優しさに甘えていいのだろうかとも思う。

 一人残されたリビングで私はテレビの音量を少し上げた。ニュースを見ながら、私はただ画面だけを見つめていた。
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