君をひたすら傷つけて
 私はフッと息を吐くと、窓辺に行き、静かに目を閉じる。時間が私を少しずつ癒してくれ、少しずつ思考をクリアにしていく。自分の行動を自分で素直に受け入れると、そこには甘えるだけ甘えた女がいた。

 そして、離れた時間の分だけ、心の中を静かに見つめることが出来たと思う。

 私は義哉の代わりでなく、お兄ちゃんを……高取慎哉を愛しているということが分かった。離れてみて、寂しいという気持ちよりも、どうしているか、身体を崩してないか、仕事ばかりできちんとご飯を食べているかということだった。元気であって欲しい。幸せに過ごして欲しいと幸せだけを願う。

 一日も欠かさず毎日届くメールを見ながら、私はお兄ちゃんの毎日を知る。そのメールを読みながら、優しい気持ちになっていく。

 そんな私がいた。

 お兄ちゃんのことを考えると胸の奥がチクッと痛みを感じる。傷つけて申し訳なかったという思いと、それでもあの時はそうするしか出来なかったと言い訳する。

 そして、私は胸の辺りを少し抑えた。

 会いたいと思った。
 顔を見たいと思った。

 我儘で逃げただしたのは私なのに、声を聞きたいと思う。

「会いたいと思うなら行けばいいのに」

 そう言ったのはマンションのリビングでミルクを飲みながら、まりえが言う。

「追いかけさせるのもいいわ。冷静沈着な男が一人の女を求め続けるっていうのもロマンがあるわ」

 そう言ったのはまりえの横で赤ワインの入ったグラスを煽るリズだった。
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