君をひたすら傷つけて
 リズはお兄ちゃんに子どものことを言わないなら、リズが父親になるという。

 リズの戸籍はまだ変えてなくて、国際結婚という形を取り、一緒に育てるのもいいんじゃないのと言っている。
 まりえはそんなリズの提案に半分くらいは賛成のようだった。私とリズの間にある友情は深いもので、二人なら立派に子どもが育つだろうけど、お母さんが二人というのはどうかと言いだした。

 リズはそれなら『男に戻ればいいだけ』と簡単に言うから、またややこしくなる。リズから本当の名前である『リチャード』に戻るとさえ言っている。

 妊娠して、怖いと思う反面、嬉しいとも思う。結婚もしてないのに、子どもを身籠って、相手は知らないという状況で、こんなに楽観的に嬉しいと思うのはリズとまりえがいるからだろう。

 でも、私はリズと育てることにすると決めたとしても、お兄ちゃんには言った方がいいのではないかと思っていた。それは篠崎さんと里桜ちゃんの結婚式の帰りに見た橘さんと叶くんの姿があったからだった。

 橘さんは叶くんの存在を知らずにきて、今、その失った時間を取り戻そうとしている。妻も子も守りたかったという橘さんの言葉を聞くと、お兄ちゃんに教えた方がいいのかもしれないと思う。でも、逆にお兄ちゃんの幸せを考えると、私も子どもも要らないというかもしれない。あの時、言ってくれた『愛している』と言う言葉ももうないかもしれない。

 また、考えることが増えるばかりだった。

 更に一ヶ月が過ぎ、マンションを出てから二か月半という時間が過ぎていた。
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