君をひたすら傷つけて
「そろそろ決めないといけないわ。父親はどっちにする?」

 まりえは書類の整理をしながら、そんな言葉を呟いた。時間が過ぎると同時に私のお腹の中の子どもは育ち、そして、時間が過ぎた分、今更どんな顔をしてお兄ちゃんに会えばいいのだろうかと思っていた。

 お兄ちゃんの傍から逃げたのは私で、きちんと話もしないままになっている。身体の具合が悪かったと言って、仕事を離れて、随分と時間が経っている。あの時は妊娠しているとは思わなかったから、まりえの好意に甘えたけど、今は妊娠しているから、何もなかったかのように戻ることも出来なくなっていた。

 もしも、お兄ちゃんに妊娠していることが知られたら、どう思われるだろう。責任感で迷惑を掛けたくなかった。それなら、リズと一緒に育てた方がいいのかもしれない。

 リズなら、多少破天荒な部分はあるけど、いい父親??になってくれると思う。

「どっちって…。もう、高取さんは、今更って感じでしょ」

「そう?雅が普通にマンションに帰ればいいだけだと思うわ。鍵もあるし」

「マンションに帰るなんて出来ないわ」

「そう?何もなかったかのように高取さんのマンションに戻ってもいいと思うわよ。多分、雅が思う以上に前と同じ生活が送れるようになると思う。フランスから帰国した時も随分離れていたけど、日本にいた時と変わらなかったでしょ」

 まりえは何でもないように言うけど、お兄ちゃんに知られ、拒絶されたら怖い。冷たくされたらどうしたらいいのか分からない。

「じゃ、リズにするの?」

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